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AV撮影の裏側を見ちゃう?結構深淵って感じですよ?それでも良ければ…

-恐ろし屋厳選怖い話-
~恐ろし屋 怖い話シリーズ~
赤異本 外薗昌也 より 抜粋

AV女優(1)

「今は堅気っす」
筋肉で盛り上がった太い腕を組みながら、Jさんは笑ってそう言った。
じゃあ昔はなんだったのか──というと。
「AV監督。一時期はすごい儲かったんすよ。でもネットで違法配信されるようになって一気に下火になったんす。若い時はあれですけど、歳とっちゃうと興味も薄れてきて──足洗いましたけどね」
今はもう「普通」の会社で働いてるという。
「何か怖い話はありませんでしたか?」
と聞くと、
「もちろん、ありますよ」

と氏はにこやかに即答した。
都内に当時、病院を改造して作ったスタジオがあったという。経営者が自殺しただの、 医療ミスが原因で潰れただの色々な噂があったが、どれも定かではない。
ただ、かつて本物の病院だったことは確かである。AVでもナースものや、猟奇系など企画モノで需要のあるスタジオだった。
ところが、霊安室のある地下で撮影をすると、血まみれの白衣姿の男が出没し、音声に赤ん坊の泣き声が入るので使えない。
撮影時には異変がなくとも、後で映像をチェックすると、画面の隅にスタッフでも女優でもない見知らぬ女が映りこんでいる。
また、病室である監督が女優と一対一のハメ撮りをした時には、監督とは別の男の荒い息遣いが入っていた。
……と、そのスタジオの話だけでもいくらでもあるという。
「ご自身で体験したことはないんですか?」


さら突っ込んで尋ねると、Jさんは〈ピクリ〉と反応したあとに僕の目を見て短く答えた。
「あります」
その日、スタジオに現れたその女優は初めから異様だったという。
「その女優のマネージャーから、自分は他の現場のトラブルで行けないので、女優だけ先にタクシーで行かせますという電話があって。
彼女は時間ギリギリに現れたんです」
Jさんは話し出した。
「キカタン(企画単体)候補の子のはずでした。風俗に勤めていたとかなんとか聞いてましたが……一目見て、アチャーですよ」
「というと?」
「いやね、まあまあキレイな子なんですよ。多少歳は食ってたんで身体の線はぼやけてましたが、顔立ちは悪くない。でも……目が、ね」
虚ろだったという。
生気のない虚ろな目でじっと人を見るのである。
しかし、見てはくるのだが、そもそも焦点があっていないから不気味このうえない。

こちらの目ではなく、脳の奥でも覗いているような眼差しというのか……それがどうも 人を落ち着かせなくさせる。
「はじめはヤク中なのかなと思ったんすけど、腕に注射の痕とかはないし。シンナーなら トルエン臭いからすぐにわかるけど、それもない。受け答えはしっかりしてるし、リスカ 痕もないからメンヘラでもない。だけど……今一つ華がないというか……とにかくテン ションの下がる女でしたね」
スタッフたちも互いに目配せしながらそわそわと落ち着かない。
「みんな、女の異様さを感じていたんですよ」
それでもAVは予算も撮影日数も限られている。
期限内にキッチリ使えるものを撮らなきゃならない。
みんなそれをわかっているから、妙な使命感だけで腰を上げた。
「撮りが始まったら女も乗ってくるだろう、ダメならパッケージで誤魔化せばいいやと、 自分も腹をくくって撮影を開始したんすけど……」
ライティングがうまくいかない。

「暗いんです、とにかく。その女の周りだけ妙に暗い」
雰囲気の話ではない、物理的に暗い。首を傾げながら、ライトを何機か用意させて彼女を照らそうとするが、
「何故かライトが点かないんです。球は切れてないから電気系統の接触不良みたいだといじってたら急にパーッとなって──」
いきなりライトが点いたという。 「直った! と一瞬喜んだんですが……妙な音をたてながら明滅するんですよ」
ファンファンファンファン……
ライトは奇妙な音をたてながら光を明滅させると、突然ブツン!と消えた。
「今度こそ本当に消えました。使っていた球が全部、切れてました」
スタジオはシーンと静まりかえった。
つ 「私もスタッフも男優も全員引き攣った顔で、今のなに? って。でも……」
ざわめきの中、女優だけは一人平然としていたという。それどころか、
「うすーく笑ってるんです。青くなってる自分たちを見て笑ってましたよ。例の虚ろな目
で。……唖然としました。わけがわからなかった」

厭な空気のまま、カメラ用ライトだけで撮影は再開した。 「多少暗くたって構わない。とにかくさっさと撮影をすませて帰りたい、その一心でした」
みな同じ気持ちだったのだろう、全員が黙々と仕事を続ける。
ビデオの内容はSMモノだった。手足を縛られ、口をガムテで塞がれて「ウンウン」唸っ ている女優を、男優が無言で見下ろすシーンのときだった。
ヒィーッ ヒィーッ ヒィーッ……
「薄気味悪い女の悲鳴みたいな声がスタジオに響いて」
スタジオの壁中に反響するように、押し殺した悲鳴が空気を揺らした。音源が何処からなのかわからない。背中をさーっと滝のように冷たい汗が流れ落ち、尾てい骨の窪みに溜まる。
「チェ、チェックして」
内心、ソレが原因ではないと感じつつ、スタッフに女優の口のガムテを確認させる。放心していたスタッフが慌てて女優の元に駆け寄り、口に貼られたガムテに異常がないかチェックする。
「だ、大丈夫です…漏れてません」
わかっていたことだった。あの声は女優の口から漏れたものじゃない。
全員固まってしまった。
「もう無理、こりゃいかんってことで撮影は中断です。気の弱い助監督やメイクは帰るって言い出すし、そりゃもう困った困った」
集まって「どうしようか」と相談するスタッフたちから一人離れて、スタジオの隅に女優が座っていた。
また女が笑っているような気がして、Jさんは女を見ることができなかったという。
やっぱりこの女優じゃ無理、と思ったJさんは事務所に電話をした。
「事情を説明して他の女優を呼んでもらおうと思ったんですが……たまげました」
「え? どういうことですか?」
僕の問いにJさんは呟くように答えた。

「女優は来てなかったんですよ」

「事務所が用意していた子は、タクシーが事故って怪我をしてスタジオに来れなかったんです。」 「じゃあ……」 「ええ、全然関係ない女がスタジオに入ってたんです。もう全員ビックリして、お前何者 だ? って女を問い詰めたら……」
ニヤーッと笑い、女はスタッフの間をすり抜けてスタジオの外に走り去ったという。
「AV業界は欲望の渦のど真ん中。金と女と暴力と。まあ、私は暴力には関係しませんでしたが、金で女を道具として扱うんだから同じですよね。女の子だけじゃなく、周りも廃人になったり、自殺したりや病死したりする人が多い。そういう世界だからとにかく変なのが……オバケが集まるんですよ」
「はぁ……」
いや、確かにすごい話だった。だがしかし──。
「それってただのおかしな女……たとえば元AV女優か何かだった女が入り込んでイタズラしたとかいうんじゃないんですか?」

と問う僕にJさんは首を振った。
「あれはオバケですよ。だって撮影したビデオ確認したら……」
口が裂けていたという。
撮影したビデオの中の女はすべての画面で口が耳元まで裂け、その裂けた口を歪めて 笑っていたらしい。 「あれが人間なわけないでしょう」
紫煙を吐き出しながらJさんは吐き棄てるように最後にそう言った。
その後、そのビデオがどうなったかは知らないという。



creator-masaya-hokazono
ギャグから始まり。ファンタジー、SFと移行していき、今はホラー。何故こうなったのか?とよく尋ねらる。昔、ある俳優さんから『役者はお祓いはしないんですよ』と教えられて驚いたことがあ...
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