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掘った穴から出てきたものは丸い何かだった…

2016年10月29日

『墓荒らしアイドル』 墓荒らしアイドル 第3回-完-福谷修

-恐ろし屋厳選怖い話-
~恐ろし屋 怖い話シリーズ~
「恐怖のお持ち帰り~ホラー映画監督の心霊現場蒐集譚」 より
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「墓荒らしアイドル」
第3回 著書:福谷修
「ええっ……」

傍らのロングヘアの子は今にも泣きそうだ。

「……もうやだよ……」

「静かに。……それは、どんな形をしている?」

Mさんの問いかけに、ショートヘアの子は穴に入れた両手をまさぐった。

「……丸みを帯びて……」

「……丸み? 頭蓋骨か……引き上げられるか?」

「Mさん、ちょっと勘弁……」

ディレクターが困惑して声を上げるが、M氏は「黙ってろ!」と怒鳴った。

「頼む、引き上げてくれ……」

ショートヘアの子は返答しないまま穴を見つめ、少し前のめりになって、さらに腕を奥へと突き入れた。
そして深い呼吸をした後、両肩に力を込めた。

ずっずっ……と穴の下で土が揺れ、こすれる音が静かに響いた。
ふいに空気が抜けるような乾いた音がして、彼女がゆっくりと体を起こす。
砂がこぼれ落ち、土にまみれたそれが、彼女の両手に抱えられるように、穴から姿を見せた。

カメラとライトが向けられる。
彼女は楕円形の物体を左手だけで持ち直し、右手で、表面に付いた土を軽く払った。
ごつごつして凸凹の目立つ、灰色の表面。

明らかに頭蓋骨ではなかった。

「……石か……?」

「ですね……重さといい、これ……石です」

ショートヘアの子が、ほっとしたようにため息をついて言った。
ディレクターも「なんだ、石かよ……」と安堵の苦笑いを浮かべる。
やっと現場に少しだけ和んだ空気が戻った。

「えっ……でもさ……」

ショートヘアの子と向き合うように、反対側から石を覗き見たロングヘアの子が、石を指さして言った。

「これって……血じゃない?」

土を払った石の表面に、泥や土の汚れとは明らかに異質な赤茶色がべっとりと塗りつけられるように付着していた。
ショートヘアの子も石の向きを変えて、その部分を見た。

「……ああっ……」

彼女はおびえるように、体を小刻みに震わせた。
石が彼女の手から離れ、地面に落ちる。

「……ど、どうした?」

M氏の声に反応するように、彼女が顔を向けた。
すると、その両目は驚愕するようにかっと見開き、ゆっくりと右手を挙げて、M氏を指さした。

……なんだ……。

彼女は顔をこわばらせて唇を開いた。

「……後ろに……たくさんの人が……」

M氏は振り返った。
そこに人はおらず、墓石が並ぶだけだった。
瞬間、鋭い悲鳴がこだました。
前を向くと、彼女が指をさしたまま白目をむき、うめき、のけぞるように地面に崩れた。
 
撮影は中止となった。
倒れたショートヘアの子はディレクターに抱きかかえられてロケバスに運ばれた。
しばらくして目を覚ましたが、無言のまま、うつろな表情で座席に座り続けた。

M氏が現場に戻ると、ちょうどADが、倒した石を元の位置に戻していた。
掘り起こした土と石はすでに穴に埋め戻したという。
M氏はもう少し詳しく石や穴を調べたかったが、それが許される空気では無かった。
後日、撮影された映像をM氏たちはチェックした。
ショートヘアの子が指さした直後、カメラもM氏の顔を捉えたが、その背後には闇が広がるだけだった。

ただ、一、二秒、闇が部分的に濃くなって深まり、揺らいだように見えるカットがあった。
しかし画面の明度を上げても、それ以上のことはわからず、最後は照明の反射が一部映り込んだと判断された。
それよりも局内では、墓荒らしのような行為が問題視され、追加で撮った後半は当然お蔵入りとなった。

「うーん、本当は放送したかったよ」

M氏は悔しがる。

「でも放送倫理的には無理だからね。まあ、無茶苦茶だよ。俺もアイドルに『墓を掘り起こせ!』って怒鳴ってさ。おかしいよな。なんであんなにカリカリしていたのか、よくわかんないんだよ。
あの時は、とにかく早くしろ! 早くしないとまずい! って気持ちで一杯だったんだ。今じゃ理解できない。本当に……何かに取り憑かれていたのかもね。はははっ」

番組は人気が出ないまま、二ヶ月後の秋の改編で打ち切られたという。
アイドルたちがその後どんな道を歩んだのか、M氏は知る由もない。

「あの時のスタッフもアイドルも、きっと俺を恨んでいるだろうな。あんな罰当たりなことをしたから番組が終了したって。
でも、それは、おまえらが糞つまんねえ番組を作っていたせいだよ。呪いやたたりのせいにするなって」

M氏はこともなげに笑い、吸ったタバコの煙を天井に向けて勢いよく吹き上げた。

「ま、俺はあの番組のおかげで、上の奴らから『こいつ、報道以外には使えねえ』と思われて、早々に報道部に引き戻されたから、結果的にやって良かったと思うよ。
ただ心残りは……やっぱり、あの穴、最後までちゃんと掘り起こすべきだったよね。絶対、下に死体が埋まっているよ。これは記者の勘だ。
俺の見立てでは、埋められた死体は、他の村人に殺されたんだろうな。石で殴られて……。あの収録の、最初の肝試しの後に、アイドルが石の中で奇妙な音を聞いたってのは……例えば、今も成仏していない死体の霊が、墓石を引っかいて、土の中から這い上がろうとしている音じゃないかと思う。
いや、石で頭を割られたまま生き埋めにされて、脱出しようとしたけど力尽きたってところかな……。村人は目印として墓石を置いて監視した。死後もね……。その秘密を暴こうとしたから、村人の霊が集まってきたんじゃないか……?
どうだ、これなら辻妻が合うだろ。な、これで記事を書けないか?」

M氏へのインタビューは、この後も二十分程録音されたらしい。
当時、居酒屋でインタビューした編集者によると、残りは記者時代の武勇伝ばかりなので、聞く必要は無いという。
 
実はM氏は報道記者に復帰後、程なくして、深夜残業中に社内で急死していた。

死因は心臓発作だという。
社内では「報道に復帰して、張り切りすぎたんだろう」と過労死をささやかれた。
 
M氏は死亡する一週間前、知り合いの週刊誌に、番組で起きた“墓荒らしの騒動”の記事を売り込んでいた。

「テレビ局では扱えないから、雑誌でネタを買ってくれないか」と。

M氏は、記事になる際には、墓地の所有者と交渉し、あの場所を掘り起こす計画を立てていたらしい。
しかしM氏が急死したことで記事の話は流れてしまった。

今もあの墓地では、たまにバラエティの肝試し企画が行われるが、目立ったトラブルは起きていないという。
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多部未華子&安めぐみ主演の映画「こわい童謡」や、NintendoDSのホラーゲーム「トワイライトシンドローム 禁じられた都市伝説」等、ホラー作品の監督・脚本を多数手がける。映画監督デビュ...
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