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2016年10月28日

『蚊』 黒史郎

-恐ろし屋厳選怖い話-
~恐ろし屋 怖い話シリーズ~

爽やか怪奇エッセイ 黒史郎
《蚊に想う》

 ヤブ蚊が集団性昆虫の頂点となり、スイミーの魚たちのような結集型の擬態をするようになって、多種との共生目的で大型コロニーの作成などをし、そこには人と同じ営為が人よりも整理されて詰め込まれており、宗教のようなものを持ち、神のような存在を据えています。
 蚊の神は血でぶくぶくに肥って、腹の縞模様がだらしなく広がっています。そんな体躯の癖に偉そうなのであります。偉そうな神様は僕ら血袋から効率良く「赤い甘露」を搾り取るための教えを週に一度、崇拝蚊たちに与えるのです。偉そうに。
 神殿には、崇拝蚊たちの黒い柱【ピラー】が幾本も立ち、教えを聞いています。
 つねに猥雑な羽音が、鳥籠のように囲っています。
 さて、神の教えなのですが。ほとんどは、稚拙な発想で生まれた罠であります。
 愚かな血袋を、空っぽの袋にするための罠なのですが、どの案も荒唐無稽でチャラッポコ、常軌を逸しており、実際には使えないものばかり。ヤブ蚊の神様は馬鹿なのでした。でも、崇拝蚊は神の教えを実行します。
 神様が馬鹿すぎて飢饉に見舞われたコロニーもあります。そういう集団は巣を捨てて旅に出るのでしょう。運のいいモスキートジプシーは、人いきれのある場所=彼らにとってのオアシスーーを見つけることができるでしょう。そして、戦争がはじまりました。血袋たちの上から歓喜の雨のように降り注ぎ、髪の毛の森林にまぎれ込んで頭皮に卵を産みつける。瞼を吸って腫らせてやれば血袋どもは視界を塞がれ、覚束ない足でふらふらします。血袋の四肢には、叩かれて潰された、仲間たちのスタンプが点々としています。逕
 オアシスを見つけられぬまま彷徨う集団はどうでしょうか。一匹一匹、命を地上に毟り取られ、ぽとり、ぽとり。仲間が墜ちぬよう、ヤブ蚊たちが手を取り合っている姿は、黒い風呂敷のようです。黒いヤブ蚊風呂敷が空を舞う光景を見た血袋は、「虫枯れの季節だね」と遠のく季節を儚むのです。
 単体で血袋へと飛び込む蚊の多くは、空合掌で叩き潰されます。無駄死にではありません。爆ぜた身体からは召集霧が散り、一分後、たった一匹を潰死させた血袋は数億の蚊に覆われ、目の細かい黒い網をかぶったようになり、少しずつ血を失って、頽れるのです。

 そういう妄想をしていたら、朝が来ました。

thum5
2007年、「夜は一緒に散歩しよ」で第一回『幽』怪談文学賞長編部門大賞を受賞。1998年頃からサイト「幻想住人録666」で様々なジャンルのオリジナル小説を公開する。短篇「ラゴゼ・ヒイヨ」で...
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