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【怖い話】”どざ”って何?沼にまつわる怖い話

2016年10月30日

『全国の怖い話シリーズ』 埼玉の怖い話 『二つの沼の怪』桜井伸也

-恐ろし屋厳選怖い話-
~恐ろし屋 怖い話シリーズ~
『二つ沼の怪(上尾市)』
著書:桜井伸也
私の地元には、かつて大きな湿地と沼が密集した場所があり、子供達から地元の釣り好きの大人まで、格好の遊び場、釣り場として親しまれていた。
大きな沼二つを中心とし、その周囲に無数の小さな水場が点在。
しかも、一番外の外周を堀のように小川が流れており、それこそ多種多様、様々な生き物がいた。
鯉、鮒、鮠(ハヤ)の類、口細やタナゴ、ナマズ、雷魚、タガメやカエル、蛇、白鷺、ザリガニ 等。
それを目的に、平日、休日問わず、時間のある老人から、学校帰りの小学生まで足繁く通っており、二つ沼の愛称で知られていた。
しかし、学校や地区のPTAの大人からは、近寄らないようにとの警告がいつも出ていた。
何故ならば、粘度の高い泥と、小川から流れ込む水で、至る所に底なし沼が出来ており、一度はまると抜け出せないという、危険な場所でもあったからだ。
地元の人間では無かったらしいが、子供、老人がそれぞれ沼にはまって危険な状態になったらしい。

らしいというのは、誰も二つ沼に関して積極的に話そうとはしないし、私が小学生当時によく通っていた大人達は、皆高齢の為亡くなってしまった。
今では、沼があった事を知らない人の方が増えてしまったからだ。
私は、その噂の真偽を、実体験をもって確認した、数少ない人間の一人だと思う。

昭和五八年、小学五年生、七月初旬。
私の母の実家が二つ沼近く、天神神社の対面にあった為、土曜日は午前授業が終わると、 懸命に走って下校し、通学路違反をして、母の実家に一目散に向かった。
目的は、二つ沼での釣りだった。
祖母が昼食を用意していてくれるので、それをかっ込んで、お小遣いを握ると、これまた母の実家の別対面にある雑貨屋、フミヤさんでお菓子とジュースを買い込む。
更に、何故か発売日より早く入荷する少年ジャンプ、別名フライングジャンプを購入し、自転車のギアを最高速にして、二つ沼に急いだ。
小学生の低学年時は、底なし沼への恐怖があり、外周の小川や、入口から近い小さい沼でザリガニ釣りというのが定番のコースだった。
高学年になると、リール竿やルアーを手に入れ、雷魚や鯉、鮒が目的となる。
自然と、釣り場の取り合いをする相手は大人という事になり、農作業を終わらせて来る大人達より、いち早く場所をキープする必要から、集合遅れはご法度であった。
汗をかいて二つ沼の入口にあたる、背の高い葦の中にある砂利道に到着すると、いつもの釣り仲間二人が待っていた。
が、彼らの表情は妙に暗く、押し黙って会話もしていない。

「平ちゃんどうしたの?何かあったの?なぁ、サトちゃんどうしたんだよ?」

雰囲気のおかしさに気付き、友人二人に聞くが、答えが無い。

「何だよ、遅れてないだろ? 何怒ってんだよ?」
「違うよ、しんちゃん、怒ってんじゃないよ」

理由を聞くと、サトちゃんが最初に来た時、先に入って行くおじさんがいたそうだ。
格好は作業着の上下を着ており、簡素な竹竿と、小さなバケツを持っていたとの事。

「何だよ!先に人が来てるなら、急いで行こうぜ!もういい居場所取られてるかもしれないじゃん!何二人ともぼーっとしてるんだよ!」
「そのおじさんはもう帰ったよ」

平ちゃんが落ち着いた口調でそう言った。

「え?帰った?居ないの?そうかぁ、それでのんびりしてんのか……で、早く行こうぜ、他の奴も今日来るって言ってたしさ、雷魚の沼取りたいんだよ……」

平ちゃんが、サトちゃんと顔を見合わせて、困ったように肩を落とした。
どう説明した物か、と考えあぐねているようだった。

「あのさ、そのおじさん、入って行ってしばらくしたら、凄い勢いで戻って来たんだけど ね……変な事言ってたんだよ」

聞くと、釣り道具を両手で抱えて走って来たそのおじさんは、サトちゃんに僅かに遅れて到着した平ちゃんと二人に向かい、怒鳴るようにこう言っていたという。

「お前ら入るな!逃げろ!どざがいる!ありゃ駄目だ!逃げろって!」

そう言って二人を蹴とばすように足で追い払うと、原付に乗って逃げ帰って行ったという。
二人は、怖くなって一度自転車で離れたが、様子を見に戻って来た。
そこに私が合流したという訳だった。
私達は迷ったあげく、やはり折角来たのだからと釣りに入った。
その日の三人の目的は、姿形の恐竜っぽさにほれ込んでいた雷魚釣りだった。
その雷魚がやたらと棲みついている沼があり、雷魚沼と呼んでいた。
入口から左に奥深く入った、 中規模の沼で、その周囲は底なし沼が多くあり、結構危険なポイントだった。
ブクブク泡を立てる泥沼に、誰が持って来たのか板が数枚重ねて、橋のように置いてある。
その上を渡って行くのだが、じっと乗っているとゆっくり沈んでいく。
だから、忍者よろしく素早く渡って行かなければならない。
しかも、周りは大人の背丈程度ある葦が密集しており、子供には方角が分かり辛い為、ビニールテープで葦をまとめて縛り付け、出口への目印にしていた。
このテープは切れたり、ボロボロになると、誰かが修復していて、 いつの間にか元通りになっていた。

その日、雷魚沼の直前の底なし沼に差し掛かると、いつもの目印の葦束が、べっとりと泥にまみれており、テープはボロボロになって投げ出されていた。
あれっ?と思った瞬間、鼻につく匂いがし始めた。
三人で顔をしかめる。
雷魚沼に到着。
てきぱきと竿を用意し、沼に放り込む。
今日は魚肉ソーセージを餌にした。
先程の目印の異変の事が、瞬く間に頭から消えていく。
いざ釣りが始まってしまうと、匂いも慣れるのか、気にならなくなる。
元から、周囲は土臭く、生臭い。
しばらくして暗くなり始め、平ちゃんとサトちゃんは帰って行った。
私は、祖母の家が近いという事と、婆ちゃん子で、毎週末泊る為、少し遅くなっても平気という事もあって、 一人残って釣りをしていた。
「バシャバシャ!   バシャバシャバシャ !! 」
突然近くの沼と思われる方向から、水面を乱すような、大きな音がし始めた。
ぎょっとしたものの、大きな鯉などが跳ねたり、白鷺がエサ取りの為に動き回って大きな音を立てる事があるので、少しすると落ち着いて、さて、もう一振りと思っていた時だった。
「バシャン!……バシャバシャ!……バシャン!」
音が、何となくリズムというか、意思を感じさせる気配があり、急に鳥肌が立った。

「おわっ!今ぞっとしたぁ!!」 思わず独り言を言った。
怖かったのだと思う。懐中電灯を探そうと、バッグを手繰り寄せると、また音がした。
「バサバサ……バシャンッ !! 」
ひと際大きな音がして、それを最後にピタッと止んだ。
同時に、物凄く視線を感じ、ゆっくりと顔を上げ、音のした方向、自分のやや左前方の葦藪を見た。
もう色が暗くなり始め、夕方と言えなくなり始めた辺りの中、葦藪の根元が、僅かに開いており、その奥に這いつくばった影が居た。
ぼんやりと薄暗い光の中で、濁ったような目の白さがやたらとハッキリ見えた事を覚えている。
私が叫び始めたのと、その影が葦藪から這いずり出て、沼にバシャンと入ったのが同時だったと思う。
私はバッグだけ掴んで逃げ出した。

板切れを飛び渡り、ぎゃあぎゃあ喚きながら、自転車まで辿り着くと、猛烈な勢いでペ ダルを漕ぎ、祖母の家に逃げ帰った。
汗だくで飛び込んできて、泥だらけのまま座り込む私を見て、祖母は心配し、まず風呂に入れと、私を風呂場に引っ張っていった。
泥を流し、洗っていると、来客があったらしく、祖母が玄関に出ていく音が聞こえた。
しばらくして、祖母が風呂場のすりガラス戸を叩く。
「どうしたの?ばあちゃん……」

「あのな、しんや。お前が凄い声上げて帰って来た後、黒い服着た男が、家の周りフラフラしてた、って。大丈夫かって、フミヤの旦那さんが来てくれてるんだけど、何か知ってるか?何だか、ゴルフのクラブを持って来てるんだよ……」
私は恐ろしくなって、湯船に飛び込んだ。
黒い服ではない。泥だらけのあいつが、沼を渡って来たのだ、と直感的に思った。
家を突き止められた!そればかりが頭の中に回った。

着替えて、居間に行くと、フミヤさんが祖母とお茶を飲んでいた。
今日会った出来事を話すと、祖母が困ったような顔で言った。

「どざっていうのは、溺れ死んだ人の事、土座衛門って事だよ」

そうか、あのおじさんが言ったどざっていうのは、死体が居るって事だったのか……と、 私は納得しかけて、いやっ!と思った。
私が見た黒い影は動いていたし、音を立てていた。
死体なら動く筈はない。

「付いて来たんだよ!どうしよう!?どうしたらいいんですか!」

私を宥めるように、祖母とフミヤさんが色々と対応を話し始めた。
翌日、何人かの人が沼を見に行くと、雷魚沼の裏手にあたる沼に、まだ新しい原付が七割方沈んでいたという事だった。
死体は見つからず、事件にはならなかった。

-終-
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ゲーム開発者・イラストレーター・怪談家。幼少時からの怪体験を経て、心霊現象に興味を持ち、怪談・心霊写真の蒐集を始めて25年以上が経つ。怪談家:関谷まゆこ、声優:保志乃弓季とともに、...
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