isekai07-thum

変な生活をはじめて一ヶ月が過ぎ、待望の給料日がやってきたが…

2016年10月29日

『魔界ぐるぐる巡り どんぶらこ編』 異世界編⑦―マインドコントロール -後編-餌食姫

-恐ろし屋厳選怖い話-
~恐ろし屋 怖い話シリーズ~
魔界ぐるぐる巡り どんぶらこ編より「異世界編⑦―マインドコントロール -後編-」
そんなこんなで1週間位した時でしょうか。
常連のドンちゃんがいつものように、ビミョービミョーと言いながら飲んでいたのですが、カウンター越しに直美の方をちらちら見ながら、何やら神妙な顔で話しかけてきました。


「なぁえじき、相談があんだけどさ、言うなよ?」

「うん?どうしたの?」

「あのな…俺気づいちゃったんよ」

「?」

ドンちゃんは微妙にモジモジしながら言いました。

「俺な、直美の事が好きになったんよ…」

「え?早っ…で、直美のどこを好きになったの?」

「見た目」

「そうか…いいんじゃないかな」

「でちょっとさ、直美にさぐり入れてくれよ。」

まあ外見も中身も果てしなくビミョーなドンちゃんなので、本人に聞くまでもないだろうと思ったのですが、

「たのむぜチェケラ♪」

とポーズをつけてきたので、

「わかったYo」

と返しておきました。
私は一応その日寝る前に直美に聞いてみました。

「今日ね、ビミョーのドンちゃんに相談されてね、直美の事好きなんだけど、どうかなって…」

言い終わらないうちに直美は予想通り思いっきりぶーっと吹き出しました。

「え?ドンちゃんが?!無理無理無理無理!!!!」

さらにげらげら笑い出し、

「だっていつもいつもビミョー、ビミョーって、あんたが1番ビミョーだよって感じだよねー。ビミョ~」

と、ドンちゃんのマネまで始めたので、これは完全にないな、と思いドンちゃんにはあきらめて頂こうと思いました。


それはともかく、私たちの勤務時間の方は夕方から終わるのが深夜3時とかまでだったので、ものすごく不規則な生活を送っていました。
また休みが月に2日とかしかないので、だんだん人使いが地味に悪いなと違和感を覚えるようになりました。
さらに地味に軟禁されてるのも問題でした。

一応、外出は仕事に行く前までのお昼~夕方の間までの許されていましたが
それすら自由ではありませんでした。

マスターには出かける時は必ず前もって言う事と、勝手に出かけてはいけないという事になっていたからです。
玄関の鐘の他にも、部屋の襖にも鈴が付いていて出入りするたびに音がするようになっていました。

そして庭には犬。今考えるとこれは防犯が目的じゃなくて、脱走予防だったんですね。
そして外へ出たとしても、最寄り駅までは歩くと30分はかかると言われる程遠く、道もよくわからず、周りは見晴らしのいい田圃だらけで何もありません。
車で追っかけてきたら、一瞬で捕まってしまうでしょう。

ただ、コンビニまではまっすぐ歩くと15分位で着くので、すぐ覚えました。そのコンビニに行くのだけが私と直美の自由な時間でした。
しまいにはコンビニって楽しいよね、なんて言いながら行くのが楽しみになってました。

この頃、私と直美は不信感を抱きつつも、ママにお世話になってるし、ごはんとかお洋服とかも用意してもらってるからしょうがないよね?と脳内で言い聞かせ納得するようになってました。
毎日ように、あんたたちがいてくれるからママもがんばれるの、ありがとうね、と言われたり、『二人はわたしの娘』『二人は家族』『ママを助けてくれな』という魔法の言葉のせいで、私も直美もそんなに大事に思って信頼してくれるなんて…と感動し、何があってもママのためにがんばらなくちゃ、と思うようになっていたのです。


今だから言えるのですが、何というかママさんは生まれついての才能なのかどこかで学んだのか、洗脳というかマインドコントロールが実にうまかったのです。
それに、当時の私たちは目の前の事しか考えられなかったので、変だということがわかりませんでした。
世界がせまいというか判断能力が乏しいというか完全に残念な感じですね。

そんな感じで毎日を過ごしていたある日の事でした。


「二人ともちょっとおいで」

と居間にいるママに呼ばれました。部屋に入るとテーブルの上に、よく銀行のATMの横に置いてあるような白い封筒が二つ置いてありました。

「…二人ともうちに来てひと月、いろいろつらい事、いやな事もあったと思うけど、本当によくやってくれた。おかげでママすごく助けられたのよ。感謝してるわ。二人ともほんとにいい子。ほんと。えじき、直美、ありがとうな。ママはとってもうれしい。これからも、ずっとママを助けてね。」

と、うっすら目に涙を浮かべながら言いました。
私も思わず感動してもらい泣きしそうでしたが、同時に、ああ、ここへ来てもうそんなになるのか、長いような短かかったような一か月だったな、などとぼんやり考えてました。

「…でな、これはそんなあんたたちへ、ママからの感謝の気持ち。少ないけど大事に使ってな。それじゃこれからもよろしく、たのむな。」

そう言って私たちにテーブルの上の封筒を渡してくれました。
どうやらこれはこの一か月の給料のようでした。
居間を出ると、私と直美はすぐ部屋に帰って封筒を開けました。
中には「給与明細」と、1万円札と5千円札が1枚、千円札が2枚だけ入ってました。

それだけでした。…17000円?
隣を見ると、直美が封筒を開いてのぞき込んだり、逆さにして振ったりしてます。

「…えじきちゃんも17000円?」

直美が目を剥いて言いました。

「うん、どの角度から見てもな」

「1ヶ月分だよね??」

「…明細には書いてあるね」

私たちはしばし沈黙してしまいました。

「…初めての給料だからかなぁ?」

「これ、とてもまともな給料じゃないよね。あんなオヤジたちにホステスみたいな接客して、この金額はないよね。時給にしたらいくらになるんだろう…100円いかないよね?地方のコンビニのがまだ稼げるよ」

「でもママに涙ながらに渡されたから、少ないとか言いづらいね」

「たしかに。ママはいい人なんだけど…」

現金なもので、直美はこの一件でやる気がなくなり、だんだんマインドコントロールが解けて行きました。
こんな生活をさらに2~3ヶ月続けた頃でしょうか。直美が急に

「えじきちゃん、わたし今日脱走するわ」

と言い出したのです。

ejikihime
ホラー映画と漫画とハロプロとウサハナが好きな変態です。体験手記『魔界ぐるぐる巡り』を模索舎さまにて販売させて頂いてます☆普段はオカメインコと暮らしながら時々呪みちる先生のお仕事の...
続きを読む

コメントをどうぞ!