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【恐怖】宗教で財を成した!?めましとは?

-恐ろし屋厳選怖い話-
~恐ろし屋 怖い話シリーズ~
「めまし」
著書:外薗昌也
「いいネタ拾えると思うよ」

数本の連載を持つ同業者K女史からある人物を紹介された。
K女史の郷里にSさんという凄まじい恐怖体験の持ち主が住んでいるのだという。
教えられたアドレスにメールを送ってみると数時間後にSさんから個条書きのネタがつらつらと返信されてきて僕は飛び上がった。

・深夜二時に背の高い白装束の女が歩き回る。
・居間で知らない男がテレビを見ている。
・風呂場に幼児の手形が付く。
・階段が十三段。
・父が寝ているとその周りを半透明の幼児が走り回る。
・妹が市立医大の旧校舎廃墟で「めまし」なるものを見てひきつけを起こすくらい怖がり、しばらく歩けなくなった。

うーわ! なにこれ! 美味しそうなお話がてんこ盛りじゃないか! 妖怪屋敷にでも住んでいるのかこの人は?
特に〈めまし〉という言葉に興味をそそられた。〈めまし〉って何だ? 妖怪の一種か?
こういう意味不明で、しかも名前まで付いている怪異は大物が多い。必ずや凄いネタになる。
僕は興奮して「詳しく書いてください!」と返信。
返事はすぐに来た。来たのだが……。
それは「こういう事があったそうです」という身内に起きたお話ばかりでSさん本人の体験談ではなく、殆んどがSさんの妹さんのお話だった。
肝心の〈めまし〉の事も書かれていない。これには困った。

怪談とは〈恐怖実体験〉のことである。 つまり被害者の恐怖被害報告書。
実際に怪異に遭遇し〈どう怖がり・どう対処し・どう感じ・最後はどうなったか?〉を体験者から聞き出し、再構成&再現し読者に追体験させるアトラクションのようなものである。
怪談の肝になる体験者の主観が聞き出せないと書きようがない。この部分を創作してしまうと途端にリアリティが失われる。
生肉に火を通すのと同じだ。欲しいのは生肉の放つ血の匂いと質感、手触りなのだ。

失望しながらも〈めまし〉の話だけは気になって仕方なかった。
〈語感〉そのものが怪異だし、禍々しさを僕の五感がビリビリ感じ取っている。

気を取り直し、長野に住むSさんに会って直接話を聞くことにした。
運が良かったら妹さんご本人から聞けるかもしれないし、そうすればミディアムがレア、うまくすれば生肉に変わる。
ちょっとした旅行になるので、その前にSさんのおおよその人物像を聞いてみようと紹介してくれたK女史にメールしてみた。
……だが三日経っても返事は来なかった。
忙しいのだろうとは思ったが、メール魔のK女史がレス一本返してこないのは妙だった。
それが別のイベントでばったりK女史に出くわした。
「どうしたの? メールしたのに」驚く僕。

「あ、ああ、どうもー」

そわそわと落ち着きなく挨拶するK女史。

「Sさんってどんな人なの?」

すかさず例の人物のことを訊いてみる。

「えー、あのー、そのー」

とk女史は周りをきょろきょろと見回してバツの悪そうな顔でもじもじするばかり。
明らかに話しづらそうだ。 なにか問題でも発生したのだろうか? 会場の隅にK女史を引っ張っていき、詳しく事情を訊きだしてみる。

「すいません、あの人の事は忘れてください」いきなり謝るK女史。

「え? どういうこと?」何がなんだかわからない僕。

「実は……」

硬い表情でK女史は話し始めた。
僕がメールした時にK女史はたまたま長野の実家に帰っていたという。
そして自分が紹介した手前、責任を感じたK女史はSさんのお宅に伺ってみたのだという。

「実を言うと今まで外で会った事はあっても、あの人の家には行った事がなかったのよ」

そこまで言ってため息をつくK女史。やっぱり何か変だ。

「何かあったの?」

「それがさー」

Sさんの家は豪邸だった。
長野市街でもセレブばかりが住む、大きなお屋敷が立ち並ぶ地区がある。その中でもひと際目立つ豪邸がSさんの住居だったという。

「金持ちなんだ! すごいじゃん」

喜ぶ僕に陰鬱な顔でKは答える。

「中は神様だらけよ」

「は? 神様だらけ?」

その豪邸の中は、古今東西のあらゆる神様グッズで溢れかえっていたという。
壁という壁、棚という棚、居住スペース以外の全てが神棚や祭壇、呪札で埋め尽くされていた。仏教・神道・キリスト教にイスラム関係まで。
部屋といわず廊下といわず世界中の神様が積み重なって置いてある。

「Sさんがローマ法王と握手してる写真まであってさ」

K女史は腰をぬかしそうになるのをなんとか堪え、神様だらけの秘宝館と化した屋敷内をSさんに案内され、奥広間の大きな仏壇の前に連れて行かれたという。

「終始ご機嫌でさ。いい人紹介してくださったって。 あの怪談たちが世に出たら死んだ妹も喜びますって」

「え、妹さん亡くなってたの?」

驚く僕。

「うん、外薗さんが死んだ妹さんの怪談を書くことで妹さんの供養になるって言うんだよ」

家中に溢れる神様の話も驚いたが、妹さんが既に亡くなっていたと聞き僕は落胆した。
これで生肉が完全に消えた。
それでK女史は僕にメールしなかったのか。確かにこれでは報告しづらい。
〈めまし〉の話も聞けそうにない。

「それでその後どうしたの?」

僕が訊くと、
「ご焼香した」とK女史。
K女史は妹さんの遺影に焼香させられたのだという。

「そうか。それはまあ、いい事したね」

がっかりして半分うわの空で言う僕に、K女史は首を振り吐き捨てるように言った。

「いい事あるか! 私だぞ!」

「私? どういうこと?」

「死んだ妹さんの遺影って学生時代にSさんと撮った私の写真だったの!」

 K女史は自分自身の遺影に向かって手を合わさせられたのだ。

「それって何なの? Sさんって頭のおかしな人だったの?」

 目を丸くして訊ねる僕にK女史はうつむき、しばしの沈黙の後

「……ああやってSさんは財を成したんだよ」

 呟くようにそう言うと一緒に来た仲間らしい一団に向かって歩き出した。

「財を成したって…?」

意味不明の言葉を残して去っていくK女史の後ろ姿を呆然と見ていた僕は、横に立っていた時は気づかなかったが…K女史がギクシャクとしたなんともぎこちない歩き方をしていることに気づいた。
なんだろう? 何がおかしいんだろう? 目を凝らして観察するうちに何がおかしいのかがわかった。

K女史は関節を曲げずに歩いていた。
両足をまっすぐに伸ばして前に進む、昔あったブリキ製のロボットの玩具を思わせる奇妙な歩き方だった。
ふざけてるんだろうか? 一瞬そう思ったが、Sさんから最初にもらったメール内容を思い出し、ぞっとした。

《妹が市立医大の旧校舎廃墟で「めまし」なるものを見てひきつけを起こすくらい怖がり、しばらく歩けなくなった》

僕は〈めまし〉を妖怪か何かの一種だとずっと思っていたが、違ったんじゃないか?  
何かの秘密の儀式とかそういう奴だったんじゃないのか? 

宗教狂いだったSさんはその秘儀をどこかで学び、肉親や訪れる人たちを人身御供に捧げて財を成したのではないのか?
あるいはSさんはミニカルトの教祖なのでは?
非現実的な妄想だけが空転し、〈めまし〉の正体はわからず、以後K女史とも音信不通になってしまった。すべては闇の中。

しばらく経って、K女史が糖尿病を患い、両足切断したことを風の噂で聞いた。

「先生、早く来てくださいよ」 

今もSさんから頻繁に送られてくる招待メールを読む度に長野へ取材に行くべきか否か迷っている。

creator-masaya-hokazono
ギャグから始まり。ファンタジー、SFと移行していき、今はホラー。何故こうなったのか?とよく尋ねらる。昔、ある俳優さんから『役者はお祓いはしないんですよ』と教えられて驚いたことがあ...
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